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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)1752号 判決 1980年10月15日

控訴人 皆藤剛

右訴訟代理人弁護士 須藤貢

被控訴人 医療法人 恵会

右代表者理事 皆藤美實

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 横堀晃夫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人訴訟代理人は、「原判決を取り消す。控訴人に対し、被控訴人医療法人恵会は原判決別紙目録(四)記載の建物を収去し、被控訴人中尾幸衛は右建物から退去して、それぞれ同目録(三)記載の土地を明渡せ。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら訴訟代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の関係は、次に付加するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する(但し、原判決二枚目―記録一九丁―表七行目、九行目、同裏二行目、三行目から四行目、七行目から八行目、一一行目、同三枚目―記録二〇丁―表一行目から二行目、五行目、一〇行目、同裏八行目から九行目の各「(一)、(二)の各土地部分」を、いずれも「(三)の土地」と同四枚目―記録二一丁表―六行目の(三回)を(第一ないし第三回)と、各訂正する。)。

一  被控訴人ら訴訟代理人は、仮に、本件(三)の土地の貸借関係が使用貸借契約に基づくものであるとしても、右契約は、被控訴人恵会の医師の住宅敷地として使用することを目的としたもので、右使用収益は終了していないから、右土地の返還時期は到来していない、と述べ、控訴人訴訟代理人は、被控訴人らの右主張事実は否認する、と述べた。

二  《証拠関係省略》

理由

一  本件(三)の土地を含む本件(一)、(二)の各土地がいずれも控訴人の所有であり、控訴人が昭和四八年三月被控訴人恵会に対し、本件(三)の土地を期間の定めなく貸し渡したこと、被控訴人恵会が右(三)の土地上に本件建物を建築所有し、被控訴人中尾にこれを貸与し、同被控訴人が本件建物に居住していることは、当事者間に争いがない。

二  控訴人は、本件(三)の土地の貸借関係は使用貸借契約に基づくものであると主張するから、まずこの点について判断する。

《証拠省略》及び前記争いのない事実を総合すると、被控訴人恵会は病院を経営する医療法人で、控訴人の父亡勝衛が理事長、控訴人の弟美實が病院長、控訴人が理事をしていた当時、控訴人に対し、勤務医の居住用建物を建築するため、その敷地として本件(三)の土地を借用したい旨申入れてその承諾を得たが、その際貸借期間及び使用料については特段の話合いはなされなかったこと、被控訴人恵会は、右借受け後間もなく同地上に本件建物を建築し副院長の被控訴人中尾をこれに居住させたが、その後、控訴人から使用料支払いの請求をうけたことはなく、自らもまた進んで使用料を支払うというようなことをせず、昭和五〇年五月一四日、控訴人から、マンション建設のため使用貸借契約を解約する旨の書面を受け取り(この点については、当事者間に争いがない。)、はじめて、急遽借受け当初からの賃料の弁済として二六万円を同月三〇日供託したことが認められ、右事実によれば、控訴人は被控訴人恵会に対し、本件(三)の土地を無償で貸し渡したものであり、したがって、右土地の貸借関係は期間の定めのない使用貸借契約に基づくものであると認めるのが相当である。被控訴人らは、右貸借関係は賃貸借契約に基づくものであると主張し、乙第一号証(承諾書)には、控訴人が被控訴人恵会に対し、本件(三)の土地につき住宅建設用地として賃貸借契約を締結することを承諾する旨の記載があるが、右書面の成立に関する原審証人山崎昌宥の証言は《証拠省略》に照してたやすく採用することはできず、被控訴人らの右主張に沿う同証人の証言部分も措信できない。他に前記認定を覆えすに足りる証拠はない。

三  控訴人が昭和五〇年五月一四日被控訴人恵会に対し、本件(三)の土地の使用貸借契約を解約する旨の意思表示をしたことは、前記のとおり当事者間に争いがない。しかし、右使用貸借が被控訴人恵会の勤務医の居住用建物の建築所有を目的とするものであることは、前記認定の事実から明らかであるから、右目的に従った使用収益をするに足りる期間を経過しない限り、控訴人には解約権が生じないと解すべきところ、この点については、控訴人はなんら主張立証しないばかりでなく、右目的が、相当の建築費用を要し長期の耐用年数を有する建物の所有にあることにかんがみると、使用収益をするに足りる期間を経過したものとも認められない。したがって、控訴人の右解約の意思表示は効力がなく、また、他の終了原因については控訴人の主張立証しないところであるから、被控訴人恵会の本件(三)の土地の返還義務の履行期は到来していないものというべきである。

以上のとおりであるから、控訴人の本訴請求は失当として棄却すべく、これと結論を同じくする原判決は結局において相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田宮重男 裁判官 新田圭一 真榮田哲)

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